7 涼しい夏の過ごしかた
遠くで、何か鳴ってる音が…聞こえる。
人工的な…電子音…?
「…んー…?」
茜はごそごそと羽根布団から寝ぼけ眼の顔を出した。
鳴っていたのは、サイドテーブルの上に置いてあった目覚まし時計だった。
深く考えずにスイッチを押して音を鳴り止ませ、
そのまままたごそごそと布団の中に潜り込もうとして…。
そこで意識がはっきり覚醒した。
「…やば。また寝るところだった…。」
今日はふたりで横浜まで遊びに出かける予定なのだ。
布団から抜け出すと、タイマーをかけ忘れたせいで
つきっぱなしのクーラーが、フル稼働で部屋を寒いくらいに冷やしていた。
枕のそばにあったリモコンを見ると、設定温度は16度。
確か昨夜設定した時は25度にしておいたはずだが…。
卓が無意識の内に設定温度を下げたのだろう。道理で寒い訳だ。
「…もう、冷え性になったらどうしてくれるのよー…?」
恨めしそうに呟いて、再び設定温度を上げる。
「…卓、卓、起きてー。」隣で寝ていた卓を軽く揺すって起こす。
だけど、卓は起きる気配を見せない。
もう一度、今度はさっきよりも、もう少し強めに揺さぶる。
「…んー、もう少し寝かせて…。」
「…今日、横浜まで行こうって約束したでしょうー?」
「…昨夜寝たの…遅かったから…。」
「もう、遅くなったのは誰のせい!?卓が大掃除の途中であんな事するから
夜遅くまでかかっちゃったんじゃない!」
「…あんな事って?」
…しまった、なんか地雷踏んだ気がする…。
「こんな事?」
「きゃああ!?」
あっという間にあたしは布団の中に引きずり戻される。
「やだもう、離してー!!こんなことしてる時間ないってば!」
「なんか寒いし、あっためてよ。」
「誰のせいで寒いと思ってるの!
…卓でしょう、クーラーの設定温度下げたの!?」
「…おまえ、覚えてないの?」
覚えてないのって…何を??
「…ゆうべ、クーラーの温度下げたの茜なんだけど。」
…うそでしょ?
「だって、おまえリモコン探して、俺の頭に腕ぶつけてただろうが。
その後温度下げてまた寝ただろ。」
そんなの全然覚えてませんけど…?
そう思ったのが顔に出てたらしい。卓が呆れたような顔をする
「無意識の内にやってたのか…。しかも、それを俺のせいにして…」
「…え?え、あ、ごめん、卓…」
「なんか俺、ものすごーく傷ついた…」
わざとらしく顔を枕にうずめながら、ぼそぼそとした口調で言う。
でも、無実の罪着せたのは事実だしなー…。
「卓ー、ごめん、許して。…ね?」
「許してもいいけど、ひとつ条件がある」
…なんか、やな予感…。
「じょ…条件…?」思わず声が上ずる。
だって…卓が『お願い』とか『条件』なんて言い出す時は…
とんでもないことな確率が高い…と言うか、ほとんどそうだから。
昨日だって…いやって言ったのに、高校の時の制服着せられて
えっちに持ち込まれちゃったし…。
しかも、そう言うお願いの時に限って、いつもは
あたしがイヤだって言う事はしないでくれるのに、絶対引いてくれないし…。
自分の欲求とか要求がかかってると、めちゃめちゃ強引になるんだよね…卓って。
”…今回は何言い出すんだろう…?”びくびくしながら卓を見ると、
表情から考えてることが分かったらしい卓が、吹き出した。
「おまえ…本当に考えてること分かりやすすぎる。」
「…もー、卓のばかー!!…ほら!もう眠気も覚めたでしょ?
遅くなると混むから、さっさと準備して出かけようよ!」
「茜、話はぐらかそうとしてもダメ。」
…なんで分かったんだろう…。
「…やっ…!ちょ…っと、卓!」
卓の手が、隙をついてパジャマの裾から侵入して来る。
効きすぎたクーラーのせいで、ちょっとひんやりした卓の手の感触に
皮膚が粟立つような感覚。
手が冷たいだけだからじゃないとも、思うけど…。
「やぁ…ん、もう!…き、昨日あれだけしたくせに、まだ不満!?」
「うん、不満。」あっさりと言い返される。しかも即答。
その間にも、卓の手はあたしの体を撫で回してて、
はっと気づいた時には…胸のあたりに到達していた。
「あっ…やっ…だ、もう…っ!」
「嘘つき。こんなになってるのに、イヤなのか?」
ばっ!ばかー!その手のビデオみたいなセリフ言わないでよー!!
「…っ、や…!卓、の…」
「ん?何?」
「…ケダモノー…!」
「ほーお、そう言うこと言うのは、この口か?」唇が塞がれる。
「ん…んっ…!」
同時に、胸の突起も、指で…。
もう、体が勝手に反応しちゃう。
キスされてて、声を出せないのをいいことに、卓の指は好き放題に動き回ってる。
…あとで仕返ししてやるんだからー…!
…でも、今はもう、何にも考えられなくなってきちゃってる…。
ボタンをはずされて、露わにされた胸に、卓の唇が触れる。
かたく張りつめた蕾に、卓の舌先が触れ、そのまま包み込むように…。
体が、びくっ、と震えてしまう。
体の奥が、熱くなってくる。
「や…卓、ダメ…!」卓の指が、茜のパジャマのズボンの中に入ってくる。
下着の上から、茜の一番敏感な部分に触れる。
小さな下着の布地は、もうその役目を果たせないほどに、湿っていた。
「…ダメ?こんなに、濡れてるのに?」
「や、だ、もう…そう言うこと、言わないでよ…!」
卓の直接的な言葉に、茜が顔を真っ赤にして言った。
卓は、茜の下着の中に指を忍ばせ、敏感な蕾に直接触れた。
「あ…あぁ…っ!卓…!」
この頃にはもう、口ではダメと言いながらも、
茜の抵抗する気力はほとんど失われてしまっている。
もう、あとは、卓の与える快楽に翻弄されていくだけだった…。
蕾をたっぷりいじられ、次に、ナカに指が入ってきて、かき回される。
「や、ああ…ん!卓…!卓、あたし、もう…。」
「…もう…?どうして欲しい?」
茜の言いたい事は分かっていたが、卓はわざと聞いてみた。
「…わ、かってる、くせに…!…ああ…っ!!」
「…言わないなら、やめるぞ?」
”こんなにしておいて、やめるなんて…。”
「なんで、そんなこと言うの…?」
茜が、今にも泣き出しそうな潤んだ目で見上げてくる。
「だって、いつも俺の方から誘うばかりで…。
一度くらい、おまえの方から俺のこと、欲しいって言わせてみたい。」
「…な…っ!!」なんてこと考えてるの!?
そんなこと…そんなこと、言える訳ないでしょう!?
「やだ…なんで…あっ…んっ!…そんなこと…言わせたがるの?」
「言わないなら…やめちゃおうか…?」
そう言うと、卓は本当に茜の中から、指を抜いてしまう。
”こんなにしておいて、やめるだなんて…ひどいよ…。”
「や…だっ…!」
茜は反射的にそう言ってしまっていた。
「やめて欲しくないだろ…?じゃ、言ってみな…?」
卓が、耳元で囁くように言った。
そのまま、卓の言わせたい言葉を言ってしまいそうになる。
でも、上り詰める手前でやめられて、僅かにだが戻って来た冷静さが
その言葉を言わせるのをためらわせた。
「…茜」卓が、耳朶をくすぐるように唇を触れさせてくる。
「…ひゃ…!…卓…!」
「それとも、俺の事なんて、欲しいと思わないか…?」
”もう…そんな聞き方ずるいよ…。欲しくない訳ないって、
分かってるくせに…。”
だけど、言わないと本当にこのまま放置されてしまいそうで…。
茜はしばらくためらっていたが、やがて、口を開いた。
「…卓……」
「…ん?」
「…欲しいの…。」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、茜が言った。
「…よく言えました。」卓は、茜にキスをしながら、
茜の身に着けているものを脱がせていく。
そして、自分もパジャマを脱ぎ捨てて、サイドテーブルの引き出しから
避妊具を取り出して自分自身につけて、茜の中にゆっくりと…。
「…んっ…あ、はぁ…!」
茜は卓の首に腕を回して、しがみつく。
「あっ…!あ、卓ぅ…!」卓の耳に、茜の吐息混じりの声が響く。
その声が、さらに卓を駆り立てる。
「や…卓、も…う、だめ…!」言われなくても、繋がっている部分が、
茜が限界に近づいていることを伝えてくる。
卓の動きがだんだん早くなって…。
「ああ…っ、あ、卓…!」茜がのぼりつめたそのすぐあと…。
「…く…っ!…茜…!」
中で、卓自身がどくどくと、脈打っているのが茜にも伝わってきた…。
終わった後、茜は恥ずかしくて卓の方を見られなかった。
あんな事言わされて、恥ずかしいくらい乱れて…。
終わって、冷静になればなるほど恥ずかしくて、消えてしまいたくなる。
うつぶせになって、枕に顔を埋めている茜の白くて滑らかな背中に、
そっと卓がキスしてきた。
茜の体が、ぴくん、と震えた。
その反応を楽しむように、何度かキスをした後、卓が茜をぎゅっと抱きしめた。
さっきクーラーの設定温度を上げたのと、あんな事して汗をかいたせいと、
日が高くなってきて、外の気温もあがったせいもあって、暑くなって来た。
「…あつい…。」
「汗かいたからな。クーラー少し強くしようか?」
「…。」
汗かかせるようなことしたのは誰ですか…?こんな朝早くから…。
なんだか、いつもより体力も気力も使い果たしたって感じだった…。
卓がクーラーの温度を強めにして、ついでにテレビもつける。
テレビでは、情報番組のキャスターが各地の行楽地の混雑ぶりと、
今日は今年一番の真夏日になりそうだと言うことを告げていた…。
「うわ、神奈川の予想最高気温、33度だってさ。今日も暑くなりそうだなー…。」
卓のセリフに、あたしはぴんと来た。
「…卓、もしかして、これ、分かってたんじゃ…?」
そう言えば昨夜、大掃除の後、ニュース番組を熱心に見てたけど…。
確かあの時も、天気予報やってたような…。
あたしはその時キッチンでお茶いれてたから、ちゃんと見てなかったけど。
卓って…暑さと人込みが何より嫌いなんだよね…。
隣では卓がばれたか、と言う顔をしてる。
「…卓っ!」
「だって、わざわざ暑くて混雑してるところに出かけて行くより、
クーラーきいてる家で、ゆっくりしてた方がイイだろ?」
「だからってこんなだまし討ちみたいな…!もう、信じられないー!
あたし、中華街でお昼食べるの楽しみにしてたのにー!」
「涼しくなったら連れてってやるから、今日は家でのんびりしてよう。…な?」
「明日もそうやって言ってキャンセルするつもりじゃないでしょうね…?」
「どっか出かけるのもいいけど、
俺はこうして茜とのんびり過ごしてる方が有意義なんだけどなー。」
「…ばかー!ちょ……やっ!…ウソでしょ!?」
「汗ひいたら寒くなって来た。」
言いながら卓があたしの羽織ったパジャマを脱がせてる…。
「じゃあクーラー消せばいいでしょ!…っ、や…ん!!」
むき出しにされた背中にキスされて、そのまま後ろから押し倒された…。
結局その日は…クーラーフル稼働にした家の中から一歩も出ることなく、
一日が終わってしまった…。
確かに涼しかったけど…今月分の電気代の請求額が、今から恐ろしい気がする…。