5 Happy Birthday(後編)
「…やっと、出て来た。」
半泣きのあたしを見て、卓が、困ったな、と言う顔をする。
「…なぁ、それ、そんなに着るのイヤか?」
「だって…腕も足も胸元も…見え過ぎじゃない…?
なんか…もう、恥ずかし過ぎる…。絶対似合ってないよ、これ。」
ぐずぐずと泣きながら、ぼそぼそ喋るあたしに、卓がちょっと笑う。
「…バカ。似合わない服わざわざ買うかよ。自信持って堂々としてりゃいいの。」
「無理。」
「何でだよ。…本当に似合ってるって、俺の言うこと信用できない?」
そりゃあ…卓が今まで嘘ついた事なんて、一度もないけど。
でもでも、こんな露出度の高い服で街中歩く勇気はないよ。
そう言うと卓は、呆れたように苦笑い。
「…おまえ、ほんと、自分のこと分かってないね。」
…は?卓の言ったことの意味が良く分からずに、見上げたあたしを、
卓はひょい、と抱き上げて移動して、鏡の前に立たせる。
やだ、ちょっと何するの?やーめーてー、見たくないってば!
「…本当に分からない?」
「な、何が…?」
「こんなに綺麗な足、隠してちゃもったいないって。体のラインだって、ほら。」
卓の手が、あたしのはっきり出た体のラインを手でなぞる。
…だからどうしてそんなヤラシイ触り方するのよー…。
「っ、きゃ…!も、もったいないって何!?…いやー!やだ、やめてー…。」
ただでさえ丈の短いスカートなのにっ!
裾をつまんで上に引っ張ろうとする卓の手をあたしは軽く叩いて止める。
でも、そんなことじゃ、卓の手は怯まないし、止まらない。
「もう、卓、やめ…っ…ん!」
体を捩って、卓の腕から逃げようとしたあたしに、
逃がさないぞとばかりに不意打ちのキス。
やー…反則…!
あたしがキスだけで力抜けて、ふにゃー…ってなるの、ばれてから、
卓はあたしを黙らせたい時は、その方法を使うようになった。
キスしながら、卓の手が、あ…足をっ!太股の辺りをさわさわと…。
「…や…ん…。」
足の方に行ってた手が、戻って来てあたしの胸に触れる。
背後から両手で触られて。卓の長めの髪が、うなじの辺りを擽る。
くすぐったいー…!と、思ったら、その髪が下の方に移動して行く。
…何してるのかと思ったら。
ワンピースのファスナーを口で…って言うか、歯で軽く噛んでくわえて、下に引っ張ってるの。
…妙なところで変な器用ぶり発揮してない?
両手塞がってるからって、何て脱がせ方するのよ…。
…せめて脱がせたいなら、その間だけでも、胸から手、離せばいいのに。
そう言ったら、卓、何て言ったと思う?
「触り心地いいから、手ぇ離すのもったいない。」
あのー…もったいないって…コレって、そういう問題?
…どうでもいいけど卓、最近もったいないってよく言うようになったけど、
ひょっとしてあたしの口癖、真似してる?
背中の半ばまでファスナーを下ろされて、肩をむき出しにされる。
襟ぐりが広いから、普通のブラじゃ紐が見えてしまうと思って、
今日は、ストラップレスタイプのをつけてたんだけど。
…あああっ!いきなりホックはずさないでよー…!
紐がないから、ホックはずされてしまえば、あっさり取られてしまうのよ…。
はずしたそれを床に落として。更にファスナーを全部下ろそうとする。
「や…ダメ…。」
「なんで?その服着てるの、恥ずかしくてイヤなんじゃなかったのか?」
…どうして今、そういう意地悪いこと言うかな…。
「…なぁ、知ってるか?」…何を?
「男が女に服を贈るのは、それを脱がせるためってこと。」
…うわ。知ってますけど…ってか、聞いたことはありますけどー…
それを実践する人は初めてだわ。
「…気っ障ー!」
「…やかましい。…だから、おとなしく脱がされなさい。」って、言って。
ファスナー全開にされて。ワンピースが、するっと、床に落ちた。
ショーツ一枚になったあたしを、また抱き上げてベッドにおろす。
あたしが、もう殆ど裸同然なのに対して、卓は帰って来た時のスーツ姿のままで。
まだネクタイすら緩めてもいない。
…なんか不公平?
そう思ったあたしは、起き上がって、卓のスーツのボタンに指をかけ、ひとつづつはずす。
ついでにベルトも緩めちゃえ。
…あ、でも、順番から行くとネクタイのが先かな…。
ベルトにかけた手を、上のほうに戻して、ちょっと軌道修正。
「…お?」卓がちょっと面食らったようにあたしを見る。
いつもあたしは脱がされるばかりで、卓は自分で脱ぐから。
今だって、あたしはもうこんなカッコなのに。
だから、脱がしちゃえ。
…って、思ったのに。
そんなあたしの目論見は、あっさりネクタイで挫けようとしてる。
「…あれ?」コレ、どうやったらほどけるの?
卓を見上げると、ん?どうしたの?とでも言いたげな、涼しい顔。
…むーかーつーくー…!もう知らない!
ぷいと横を向いたあたしを見て笑いながら、卓がネクタイに指をかけて緩めてほどく。
あ、そうやるのか…。
横目で見ていたら。卓が楽しそうに笑いながらそんなあたしの様子を見てる。
うわ、もうほんとにむかつく。
何でそんなに余裕たっぷりかな、もう。
いつだってあたしは卓に色々されるばっかりで。
たまに自分から行動を起こそうとしても、空回りしてるし。
ぷーっと膨れたあたしの頬を卓が笑いながら突付く。
「フグみてーだぞ。」
「…ひっどーい!」
じたばた暴れるあたしを抑え込むように抱きしめながら、卓がキスして来た。
それだけで、もう暴れる力がどこかに消えちゃう。
…ああ、もう。ちょっとズルい気もするけど。
しょうがないから、誤魔化されてあげる。
「ん…っ。ふ、ぁ…!」
何度も繰り返されるキスに、息継ぎがうまく出来なくて、
頭がちょっとくらくらしてる。
苦しいんだけど、こうしてキスされるのは、好き。
最初の頃は、痛いばっかりで。気持ちよさなんて、全然なくて。
何をされてるのか良く分からなくて、戸惑ったりとか。
心臓バクバクしっぱなしで…全然余裕なんてなかった。
…いまも、決して余裕たっぷり、って訳じゃないけど。
体中に触れられるたびに、心拍数が上がりっぱなしで、苦しくて。
でも、それは不快な苦しさじゃないの。
苦しいんだけど、その中にある心地よさとか、気持ちよさに気が付いてしまったから。
「…んん…!」
キスされながら、卓の手があたしの体の下の方におりて行って。
…いちばん敏感な部分に触れる。
濡れた指が、軽く引っかくようにソコを動き回って。
「あっ…やぁ…ん!」思わず卓の手を振り払おうとして、
でも逆にその手を捕まえられて、頭の上で押さえられて動けなくされてしまう。
もう片方の手は、卓の体で身動きできないようになってるし。
…もう、卓の思うつぼ状態?
で、動けないようにしておいてから、また卓の指が、ソコに戻る。
「…やっ…!ああ…!」卓の唇が、胸の突起を捕らえて。
同時に指が下半身の敏感な突起をつまむようにして刺激する。
「卓…やぁ…あ、く…ぁぅ…っ!」
あたしは自分を止める間もなく、イッてしまった。
あたしは卓の腕から解放されて、枕に顔を埋めた。
…普通、何度も同じコトしたりされたりしていると、耐性が付くはずだと思うんだけど。
でも、コレに限っては、されるたびに、
どんどん弱くなっちゃってる気がする…気のせい…?
卓がサイドテーブルの引出しを開けて、中をごそごそと探ってる。
小さな箱の中から、目的のもの…小さな袋を1個取り出した。
口にくわえて、袋切って、中から取り出したものを片手で器用に自分のにつけながら、
もう一方の手で、うつ伏せになってたあたしをひょいと仰向けにひっくり返す。
そして。あたしの片足を持ち上げて自分の肩にかけるようにして。
少しの間、コンドームをつけた自分のソレを、
あたしの入り口に何度か滑らせるようにつけて…中に入ってきた。
「…!!」この瞬間だけは、未だに少し、身構えてしまう。
中が押し広げられるような感覚と、圧迫感。
「あっ!…ああぁ…!」
卓が動くたびに、中が擦られる感覚が、伝わってくる。
体が熱くなってくるのが自分ではっきりと分かる。
下半身から全身に、その熱のような快感がじわじわと広がって来る。
輪郭のないぼんやりとしたものが、はっきりと見えてくるような、そんな感じ。
「…茜…!」卓の体も、熱くて、肌が汗ばんでる。
「や…ダメ…!また…っ!あぁ…ぁっ!!」
あたしは、体をがくがくと震わせて、また、イッてしまった。
「…っ!!」少しして、卓のが中で、どくん、と震えるのが伝わってきて…。
力を失った卓の体が、あたしの上に覆い被さってくる。
力の入らない腕を無理やり動かしながら、卓の背中に腕を回してぎゅーっ、と抱きつく。
重いんだけど、でもなんとなく幸せな瞬間、だったりするから、重いとは言わない。
そうやって余韻に浸ってると、眠くなってきて目がとろん、となる。
…ちょっとだけ、眠っちゃおう…。
「…う、ん…?」目を覚ますと、外はもう、暗くなりはじめてた。
明かりをつけて、時計を見ると、7時を過ぎていた。
「…今、何時?」
明かりをつけたせいで、卓が眩しさで目を覚ました。
「7時過ぎ。」
「…腹減ったな…。どうする?今からでも出かけるか?出られるか?」
「…ね、今日じゃなくても、また今度にしようよ。
あたし、もうすぐ夏休みに入るから、今度ゆっくり時間取れる時に。ね?」
「……おまえ、ホントに気がついてないのか?」
「…?…何が?」
「…今日、何の日だか分かってる?」
「今日?…祭日じゃないし、普通の日だよね…?」
「あのな…今日は何日?」
「…?7月の…14日だよね……ああっ!?」
「何、おまえ、ホントに今まで忘れてたのか?…自分の誕生日。」
「…だって、最近ホントに忙しかったから…日にちの感覚、なかった。」
「…しょうがないなー。じゃあ、食事は近いうちに仕切りなおししよう。」
「…うん。」
今からじゃ準備しなおして出るにしても、8時を過ぎてしまうし、
さっきのでちょっと、疲れちゃって、改めて出かけるのもちょっと億劫で。
「…あ、そうだ。」卓が起き上がって、スーツのポケットから何かを取り出す。
「手、出して。」
「?」右の手のひらを上にして出すと、卓はちょっと笑った。
「違う違う。」言いながら、その手をひっくり返して手の甲を上にして…。
「卓、これ…。」その薬指に、指輪がはめられた。小さくて、可愛い赤い石のついた指輪。
「誕生日おめでとう。」
「あ…ありがとう…。これ、ルビー…?」
「そう。店で聞いたら、それ、おまえの誕生石なんだって?」あたしは頷いた。
「嬉しい…卓、本当に、ありがとう。」
「どういたしまして。良かった、ぴったりだったな。」
「卓、よくサイズ分かったね。」
「この間、寝てるときにこっそり計った。計り方聞いて。計り方間違えてなくてよかった。」
「…全然気がつかなかった。」
「だろうな、ヨダレ垂らして熟睡してたから。」
「嘘っ!?」
「嘘。熟睡してたのは本当だけど。」
「もう!本気にしたじゃない!」あたしは枕で卓の頭を軽く殴った。
「うわ!悪かったって。だから殴るなよ」
笑ってた卓が、ちょっと、真面目な目になった。
「…卓?」あたしの両手を取って、卓が言った。
「左手は…いつか本物やるから、それまで空けとけよ。…こっちは、それまでの予約な。」
「……うん。」
卓は、いつもあたしの欲しいものをくれる。どうして分かるのか、いつも不思議。
でも、嬉しいよ。…嬉しいけど。
いつも貰ってばっかりで、あたしはちゃんと卓にお返しが出来てない。
今度はあたしからあなたに贈る番。
ありったけのスキって気持ちと、言葉を。…ちゃんと、伝えなきゃ。
「卓…。」
「ん?」あたしは、卓にぎゅっ、って、抱きついた。
「……大好き。」
そう言って、ちょっとびっくりしてる卓に、あたしの方からキスをした。
「…茜。」いったん唇を離して、もう一度…。
その時、二人のお腹が同時に鳴った。ぐぅ…って。
あたしたちは顔を見合わせ…笑っちゃった。
もう…人が真面目に気持ち伝えようとしてみれば…オチはこれですか…。
「何か…ピザでも取るか?」
「うん。」
最後がうまく決まらなかったのはちょっと不満が残るけど、
…さっき言ったことは、本当だよ。
そう言ったら卓は、分かってるよって。もう一回キスしてくれた…。
19歳の誕生日は、今まで生きてきた中で、いちばん幸せな誕生日になりました…。