2 鼓動



「卓、お風呂、お湯いっぱいになったよ。先入って。」
「茜、先入れば?」
「あたし、ちょっと片づけしときたいから、卓が先でいいよー。」
「何なら、一緒に入るか?」
「な、なな、なに言い出すかなもう!いいから先入ってー!」
「ちっ…残念。…わかったよ、じゃあ、先入るな。」
”『ちっ』って、何?その『残念』ってのは…。”
卓がバスルームに入り、シャワーの音が聞こえて来るのを待って、
あたしは衣装ケースからブルーの袋を出した。
袋を開け、中身を出す。袋の中身は…新しい下着だった。
何色にするか散々迷って、結局白のにした…。
それをバスタオルに包んで見えないようにしておく。
新しいパジャマも出しておく。
それと、誕生日に卓がくれた香水も出した。
使うのがもったいなくて、今まで殆ど使わずにいたけど、今日は特別。
”これで、準備できたよね…。忘れてること、ないよね…?”
視界の隅に、新しいシーツをかけたばかりのセミダブルのベッドが映る。
途端に、あたしの心拍数は一気に上昇する。

卓とは、まだ、えっちした事がない。…卓とだけじゃなく、誰ともしたことない。
つまり、今日が正真正銘、初体験…。
”どうしよう…。なんか、今頃になって、怖くなって来ちゃったかも…。”
卓の事は、誰よりも大好きだし、いつかは、こうなる事もわかってた。
そうなれたらいいって、期待も…してた。
でも、いざその時になると…何だか…緊張して、逃げ出したい気持ちになる。
高校の時、友達同士でたまに、その手の話になることがあったけれど、
みんな初めての時は、すっごく痛かったとか、壊れるんじゃないかと思ったとか、
裂けるんじゃないかと思ったとか…怖いこと言ってたから…。
「上がったぞー、茜も早く入って来いよ。」
「…!!あ、う、うん、そうする。」
”び…びっくりした…!”
…卓ってば、下だけパジャマのズボンはいて、上半身は…は、裸で
バスタオルで髪拭きながら出てこないでよぉ…!
あたしは少し焦って、パジャマとバスタオルと香水の壜を抱えてバスルームに避難(?)した。
お風呂入ってる間は、少なくとも時間稼ぎが出来る…。
その間に、少し冷静になろう…。



全身をすみずみまで洗い、髪も洗って、バスタブに体をひたす頃には、
茜も、少しは落ち着いてきた。
”…だいじょうぶ。卓となら…。”
茜はバスルームを出て、体を拭き、新しい下着をつけ、パジャマに袖を通した。
香水を首筋と手首にほんの少しだけつけた。
ドライヤーで髪を乾かして部屋に戻ると、
卓は缶ビールを飲みながらテレビを見ていた。
「茜、すげー長風呂。一時間も入ってて、のぼせなかったか?」
「嘘!?そんなに時間経ってた?」
「本当。あんまり遅いから、様子見に行こうかと思ったぞ。」
「…!」
「茜も飲むか?」卓はビールの缶を軽く振った。
「ううん、あたしはポカリにしとく。」
冷蔵庫からポカリの缶を取り出し、卓の隣に座って、一口飲んだ。
卓は、残っていた缶ビールを飲んでいる。
”…な、何か、急にシーンとしちゃったな…。”
茜は飲み終わったポカリの缶をゴミ箱に捨てようと立ち上がりかけた。
その手を、卓がつかんだ。
「…卓。」そのまま引き寄せられ、茜の体は卓の腕の中にすっぽりと収まった。
かーっと、体が熱くなる。自分の心臓が早鐘を打っているのがわかる。
卓の唇が、茜の唇を塞ぐ。
「…んっ…!」
そのまま、茜の唇を割って、卓の舌が滑り込んでくる。
”何、これ…こんなキス、知らない…したことない。”
今までしてきたキスとは全然違う。
息もつけないほどの激しいキス…。体が、熱くなる。
卓の唇が離れ、茜は大きく一息ついた。
体に力が入らない…。キスだけで、こんな風になるなんて、茜は知らなかった。
卓の胸にもたれかかる。
茜は自分の鼓動とは少し違うリズムを刻む、卓の鼓動に気が付いた。
”…卓も、あたしと同じ気持ちなのかな…?”
その時、茜は卓に軽々と抱き上げられた。
「…卓…!?」
抱き上げられたまま、ベッドのある部屋に連れて行かれる。
これから始まることに、茜はかすかな不安を隠せず、
卓の首に腕を回して、ぎゅっと抱きついた…。


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