七夕の恋人たち



美知は携帯の画面に表示された時計を見て、ため息をついた。
”聖(サトル)の、嘘つき…何が、『8時にはそっちに着けるから』よ…。”
さっきから、メールを打っても返事はない。
電話は留守電になっていた。
”あんまり待たせると、どっかに行っちゃうよ…?”

美知と聖は、付き合い始めて5年の恋人たち。
美知より3つ年上の聖は社会人。今は勤務先の会社の山梨支社に勤めている。
東京にいる美知とは、遠距離と言うほどの距離ではないが、
会いたいと思う時に、自由に会えないもどかしさが少し不満だった…。
最近仕事が忙しいのか、電話やメールをしても、あなり長く話せないし、
メールの返事も、あまり返ってこない。

それでも、今日、7月7日…七夕生まれの美知の誕生日は覚えていてくれたらしい。
『次の日は土曜日で仕事は休みだし、美知の誕生日にはそっちに行くよ』と、
電話が入ったのは日曜日だった。
以来、今日までの5日間、美知は、時間が経つのをじりじりとした気分で待っていた。

そして、今日。美知は残業も同僚の飲み会の誘いもことごとくかわし、
定時になると、着替えもそこそこに、会社を飛び出した。
途中、デパートに寄って、化粧室でメイク直しをして、待ち合わせの場所に向かった。
走って来たせいで、乱れた呼吸を整えて、目印の銅像の前で、聖の来るのを待った。

…なのに、予定の8時を過ぎても、聖は来ない…。
美知はだんだんイライラして来た。
”久しぶりに会えるって言うのに、遅刻するなんて…。”
もうすぐ、9時になろうとしていた。
「ねえ、さっきからそこでずーっと立ってるけど、誰か待ってんの?」
声をかけて来たのはいかにもナンパ目当てなのが見え見えの、金髪に近い茶髪の男だった。
美知の一番大嫌いなタイプである。こういうのは無視に限る。
「シカトすんなよー、ねえ、待ち合わせすっぽかされたんでしょ?俺と遊びに行かない?」
言い方もその内容も、とことん美知をいらつかせる男だった。
「ねえってば、行こうよ、ほら。」美知の手を強引に掴んで引っ張ろうととする。
「…離してよっ!誰があんたなんかと!!」
「んだとこの女!人が優しくしてりゃつけ上がりやがって!」
「誰もそんなこと頼んでないわよっ!!」
男はかっとなって美知にむけて手を振り上げた。
「…いでででで!!は、離せよ!何だよ、テメー!?」
男の腕を掴んでねじり上げているのは…。
「…聖!!」
「…人の女勝手に口説いてんじゃねーよ、バカヤロー。」
手を離すと、男は捨て台詞を吐いて逃げて行った。
「…遅いわよ、バカ…!」

予約してあったレストランに着いて、ワインが運ばれて来ても、まだ美知は怒っていた。
「遅れてごめん。踏み切り事故のせいで、電車のダイヤが乱れたんだ。」
「…遅いわよ、もう…!何かあったんじゃないかって…
来れなくなったんじゃないかって思ったんだから。」
「だから、ごめん!…これやるから、大目に見てくれよ。開けてみな?」
「プ…プレゼントくらいで、誤魔化されないんだか…ら…」
そう言いながら、包みを開けた美知の言葉が途切れる。
「聖、これ…!?」中から出てきたのは、ダイヤの指輪…。
「あのさ、俺、再来月に本社に戻れることになったんだ。
美知のこと随分待たせたけど…結婚しよう。」
「…嬉しい…。」

食事を終えて外に出て、少し公園を散歩していると、聖がふと空を見上げた。
「すげー星。」
「本当だ、いつも、夜空なんてまじまじと見たことなかったけど、
東京の星空も、悪くないかもね。」
「そうだな。」
「今日、七夕なのよね。」
「じゃあ、織姫と彦星も、今ごろデートの真っ最中か。」
「そうかもね。」

今宵は、満天の星空…離れ離れの恋人たちが、まみえる日…。

【End.】


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