放課後の旋律 (後編)
朔夜が入ってきてからも、美聡はずっとピアノを弾きつづけた。
朔夜は近くにあった椅子に座り、目を閉じた。
美聡はちら、と朔夜の方を見て、小さく笑うと、再び鍵盤に視線を戻す。
―― …いつからだろう、あなたのことが気になりはじめたのは… ――
半年前までは、名前と、生徒会長をしていることくらいしか知らなかった。
そんな彼が、今ここにこうしていることを、美聡は今でもどこか信じられない気持ちでいる…。
私だけの秘密の場所だと、勝手に決めていた。
だから、あなたがここに来たとき、本当に驚いたの。
見つかった時、”もうここには来れない”って思った。
でも、あなたは、私の秘密を守ってくれている…。
誰も気にも留めることのないこの場所で過ごすこの時間が、今では私の……大切な時間。
目を閉じたまま身じろぎ一つしない朔夜に美聡は首を傾げた。
”…眠っちゃったの…かな…?”
疲れているのだろう。
無理もない。この生徒数の多い学校の生徒会長を務めるのが、どれだけ大変なことか。
先日まで、入学式等の準備に忙殺されていたと聞いている。
ようやく終わってほっとしたと思ったのも束の間。
もう少ししたら夏に向けて学校祭の準備が始めないとならないらしい。
それに加えて、そろそろ受験勉強にも本腰を入れる時期に差し掛かっている。
手を抜くということをしない彼のことだ。
口には出さないけれど、きっとかなりストレスも溜まっていることだろう…。
”その合い間を縫ってわざわざここに来てくれてるのは…どうしてなんだろう…?”
ふと感じる疑問。
誰にも言いふらすこともなく、秘密を守ってくれているのは…なぜなのか…?
疑問は残るけれど、大好きなこの放課後の時間を壊さないようにしてくれていることには感謝していた。
美聡は静かに鍵盤から指を離した。
眠っているのなら、ピアノの音が煩わしいのではないかと思ったからだ。
「…沢井?」
弾くのをやめた途端にかけられた朔夜の声に、美聡はびっくりした。
振り向いた先にいた朔夜はさっきまで閉じていた目を開いて、まっすぐに美聡を見ていた。
「…眠ってたんじゃなかったの…?」
「いや」
「…そう」
美聡は曖昧に微笑んで再びピアノに向かった。
朔夜はそんな美聡の後姿をじっと見ていた。
聞き覚えのある曲が流れてくる。
「energy flow…だな」
数年前、テレビのCMソングにも使われた、癒し系の曲。
「うん」
朔夜はピアノを弾く美聡の手元をじっと見つめた。
白く長く、綺麗な指。
さまざまな旋律を、奏でる指…。
半年前、ほんの小さな偶然からここでみつけた彼女の姿。
日常から切り離されたような、不思議な光景だと思った。
いつもと違う彼女の姿に惹かれて、気になりだした。
迷惑がられるんじゃないかとおそれながらも、彼女の領域に足を踏み入れた。
だが、彼女は拒絶することもなく、ここでの時間を共有させてくれた。
忙しい日常を忘れさせてくれる、ゆったりとした空間。
だけど。
それだけじゃ満たされなくなって来ている自分の気持ちを、朔夜は持て余しはじめていた。
彼女を……美聡を知りたい。
彼女に……美聡に触れたい。
そう思うようになったのは、いつからだったか…。
だが、それで彼女が何より大事にしているこの空間を、自分の身勝手な思いで壊すのか…?
そう思い、ずっと抑えてきた朔夜だった…。
でも…
”もう、これ以上は…”
朔夜は静かに音を立てないように立ち上がった。
美聡は、視界の端で、朔夜が立ち上がるのに気付いていた。
が、そのまま再び鍵盤に目を落とす。
朔夜が、自分のピアノを弾く手元を興味深そうに見つめることが何度もあったから。
だから、朔夜に対して何の疑問も警戒も、持たなかった。
持とうとも、思わなかった…。
「……?」
ふと、手元が翳って、美聡は顔を上げ………目を瞠った。
間近に、朔夜の真剣な眼差しがあった。
もう少しで、唇が触れてしまうような、ギリギリの距離。
「…!?…か、葛西くん…!?」
美聡は咄嗟に鍵盤から手を離し、椅子から飛び退くように立ち上がった。
数歩後ずさるが、狭い教室のこと、すぐに壁に背中が当たる。
”え…?何…?どうしてこんな……!?”
パニックに陥りかけた美聡に、朔夜が再び近づいて来る。
「葛西くん…」
声が震えているのが自分でもわかる。声だけじゃなく、体まで震えだすのも…。
トン…と、軽い音がして、美聡の両側の壁に、朔夜の両手がつく。
朔夜の手が、美聡の頬に触れた。
それだけで、美聡の心臓が煩いほどに鳴り出す。体温さえ、上昇しそうなほどに熱くなる。
「…嫌だったら、本気で抵抗してくれていい…」
「……え…?」
「…でも、もし、少しでも…俺のこと、嫌いじゃないなら…」
「葛西く…っん…!」
朔夜の名を呼びかけた唇が、その途中で塞がれる。
首を振って朔夜の唇から逃れようとした美聡だったが、体にうまく力が入らない。
三つ編みを解いた後の、少しウェーブの残る髪を梳くように撫でながら、
朔夜は何度も角度を変え、美聡にキスした。
美聡は、無意識のうちに縋るものを求めて、朔夜の制服の袖を掴んでいた。
何度も繰り返されたキスから開放され、美聡は俯いた。
恥ずかしくて、まともに朔夜の顔が見れない。
俯いた美聡は、耳まで真っ赤だった。
その姿に、朔夜は…。
「ごめん……」
「謝らないでよ…」
「…ごめん、でも…好きだ」
「葛西くん……」
見上げた朔夜の瞳が、ひどく真剣で切なげで。
美聡は魅入られたように動けなくなった。
「…ここで、初めて沢井を見たときから…ずっと…好きだったんだ…」
耳元に響く、掠れたような小さな声。
”うそ…葛西くんが……?”
「………も…」
「…え?」
「私も…葛西くんのことが……」
「沢井…」
「………すき」
消え入りそうな小さな声だったが、それでも朔夜にはしっかり届いた。
俯きっぱなしの美聡の頬に手を添えて上を向かせて…。
「…葛西くん…」
美聡は朔夜の顔がゆっくり近づいてくるのを見ながら、ゆっくりと目を閉じた…。
触れるだけだったキスが、だんだんと深くなってくる。
「…ん……ぁ……っ!?」
僅かに開いた美聡の唇を割って、朔夜の舌が、侵入してくる。
思わず身を引こうとした美聡だったが、背中に回された朔夜の腕が、それを許さない。
足に力が入らない。
崩れ落ちそうになる美聡の体を、朔夜の腕が支える。
繰り返される激しくて熱いキスが、美聡の思考を奪う。
朔夜は手を伸ばして、近くにあったピアノにかけるカバーを掴んだ。
「………!?」
美聡は、床に敷かれたそのカバーの布地の上に横たえられた。
「…か、葛西くん…っ!」
美聡は慌てて体を起こそうとした。が、あっさりと朔夜にそれを阻まれる。
朔夜の胸に手を当てて押し返そうとした手を取られ、強く握りしめられた。
そのまま動きを封じられて…。
「葛西くん…まって…ん…っ…」
再び唇を奪われ、言葉が途切れる。
体の奥が熱を帯び、ざわざわと騒ぐような感覚。
でも、それは決して不快な感覚ではなかった。
だんだん、美聡は何も考えられなくなりつつあった。
「……!」
ブレザーとベストのボタンが外され、ゆっくりと脱がされた。
胸元のリボンを解かれて、ブラウスのボタンがいくつか外され、胸元を開かれる。
その開かれた場所を、朔夜の唇がなぞっていく。
首筋に一瞬、ちくっとするような痛みを感じて、美聡の体が反応した。
「葛西くん…」
首筋に、胸元に、少しずつ場所をかえながら、朔夜のキスが降りそそぐ。
朔夜の唇に触れられた部分から、熱が全身に拡がるような錯覚にとらわれそうになる。
ブラウスのボタンを全部外し、背中に手を回し、ブラのホックを外す。
布地の拘束の緩んだ膨らみに、そっと触れると、びくんと美聡の体が震えた。
柔らかなその膨らみの頂にある突起に触れる。
「…、っ…ぁ…!」
思わず漏れた自分の声に、美聡は恥ずかしくなり口許に指を押し当てて、声を殺そうとする。
だが、すぐに手を奪われ、離される。
「…声、聞かせて」
「そんなこと……ぁ…っ…!」
抗議の声は与えられる刺激にかき消される。
開かれた胸元に朔夜の唇が触れる。
「…ゃぁ、ん…!」
思わず零れたいつもの自分なら絶対出さないような声に、
美聡は恥ずかしくて顔を手で隠し、横を向く。
そんなことをしても、耳まで赤くなる羞恥は隠し切れはしないのだけれど。
朔夜は顔を上げて、美聡の手を顔から除けて…。
「隠さないで…もっと見たい…もっと、声、聞きたい」
そう、耳元で低い声で囁いた。
囁かれたその内容と吐息がかかるくらい近くで低く響く心地よい声に、美聡が体を震わせて反応する。
声に気を取られている隙に、朔夜の右手が、美聡のスカートの中に忍び込んだ。
「……!」
下着の上から指で軽くその部分をなぞると、美聡がまた体をびくりと震わせた。
潤んだ目で朔夜を見上げながら、朔夜のシャツを掴む。
その表情や仕草全てが、朔夜を煽ることに、美聡は気がついていない…。
無意識の誘惑が、朔夜の欲望をもう後戻りの出来ないところまで追い込む。
下着の中に指を忍ばせ、突起に触れる。
そこに触れながら、指を一本、ゆっくりと中に入れる。
「…っ…!や…ぁ!」
異物感と痛みに美聡が眉を顰める
朔夜は、指を動かしながら、少しでもその痛みを和らげようと胸やほかの部分を愛撫する。
「…っ…ふ…ぁあ…!」
もう、美聡には声を抑えるような余裕さえなかった。
もっとも、それは朔夜にしても同様だった。
目にうつる美聡の表情、耳に響く声、そして、触れて確かめる感じてる美聡の姿を前にして、
余裕なんか保っていられない。
理性が崩れ、互いに互いを追い詰め、追い詰められていく…。
先に限界が来たのは、美聡の方だった。
「…や…ぁ、ああ…!か、さいくん…っ!」
朔夜の愛撫で、ギリギリまで昂められた美聡が切なげに体を震わせ、朔夜の名を呼ぶ。
「…いいよ…我慢しなくて…」
朔夜の指が、美聡の奥深くをそれまでよりも激しく刺激する。
「…っ!…や…ああ…ぁ…っ!」
美聡のなかで、何かがぱちんと弾けたような、そんな感覚がした…。
そして、目の前が真っ白になった…。
しばらく、美聡は息を乱し、何も考えられなかった。
「…美聡…」
放心状態の美聡に、朔夜は優しく口づけた。
朔夜は美聡の蜜を含んで、もう本来の役割を果たさなくなっている下着を脱がせ、足を開かせた。
「…痛かったら…言って…」
朔夜は、美聡の中心に、ゆっくりと自身をあてがい、美聡の中に…。
「………っ!!」
美聡の表情が切なげに歪む。
きつく閉ざされた瞳と眉間の皺が、美聡の痛みを物語っている。
一度奥まで差し込んでから、しばらく朔夜は動かずにいた。
美聡の髪を梳き、キスを贈る。
「…葛西くん…」
美聡が少し落ち着くまで待ってから、朔夜はゆっくりと動き始めた。
「…ん…っ…!はぁ…あ…っ!」
少しずつ美聡の様子を見ながら、ギリギリまで引き抜いて、また奥まで深く差し込む朔夜の動きに、
少しずつ…本当にゆっくりではあるが、美聡の体が熱を帯び、反応し始めている。
「…ん…ぅっ…あぁ……は、ぁ…」
美聡の唇から零れる声に、僅かではあるが甘い響きが混じり始める。
「…あ、あぁ……か、さい…くん…っ!」
「名前で…呼んで…」
「…さ、くやくん……っ!」
「…っ!」
艶っぽい声で名前を呼ばれると、それだけで達しそうになる…。
「朔夜で…いい…」
朔夜はそれまでの動きより激しく美聡を突き上げる。
「…っ、あぁ…っ!朔夜…っ!」
「……美聡…」
美聡は朔夜にぎゅっとしがみつき…そのままのぼりつめた。
間もなく朔夜も…美聡の中に全てを放った…。
…そして、放課後の音楽室で、二人の共有する秘密がまたひとつ、増えた…。
ひそやかなピアノの旋律の響く中で…。
【End】
あとがき…と言う名の懺悔
………何も言うことはございません………。(大嘘)
久々にえろ炸裂!と言わんばかりの作品を書き上げてしまった気がします…。
当初の予定では、さらっと書き上げる予定でした。
夕陽を背景に、誰もいない音楽室で、しっとりと……と言う予定だったのですが…。
気が付いたら前後編、しかもこんな……(以下自粛)
どこで予定が狂ったのか、自分にも分かりません…。
こんな作品ですが、お気に召した方がいらっしゃいましたら、感想などいただけると幸いです。
では、また次回作で…。