4 本能
激しいキスと、抱擁から開放された英里は、力の抜けた体を支えようとして
カウンターテーブルに手をついた。
その時、テーブルの上にあったティーカップに手が触れ、
止める間もなくカップが床に落ちて、儚く割れた。
「ご…ごめんなさい…!」
英里は割れたカップの欠片を拾おうと手を伸ばした。
「危ないですから…僕がやります。」
「…痛…っ!」カップの破片が、英里の指先を傷つけた。
一瞬の後、小さな傷口から血が滲み出てくる。
「…切ったんですか!?…見せてください。」
彼は英里の手を取り、指先の傷を確かめた。
「…あ、だ…大丈夫ですから。…!!」英里は手を引こうとしたが、
彼はその指先に唇をつけ、傷口を舐めた。
「あ…あの…っ!」
彼の唇が、舌が触れている部分が、熱くなるような感じがした。
その感覚は指先から徐々に広がって来る…。
”さっきから、私…変…。”
さっき、キスされた時もそうだったが、
今もこうして指先を舐められていると、体が熱を帯びたように熱くなる。
それと同時に、体の奥から今までに感じたことのない、
疼くような感覚を、英里は感じていた。
彼の唇が、舌が触れ、動くたびに、だんだんそれは強まって来る。
「…あの…本当に大丈夫ですから…。」
英里は、彼の唇から、自分の手を離そうとした。
だが、その手を引っ張られ、英里は再び彼に抱きしめられた。
「…あ…っ!」
抱きしめられた瞬間、英里の体に、さっきの疼くような感覚が再び走る。
彼の指が背中や、髪に触れるたびに、英里の体は敏感に反応する。
彼女自身にも、止められなかった…。
彼は英里を抱き上げ、<Private room>と書かれたプレートの掛けられたドアを開け、
中に入った。
ドアの閉まる音が、やけにはっきりと、大きく英里の耳に響いた。
彼は、英里をソファーに座らせ、棚の上から、小さな救急箱を持ってきて、
英里の指の傷に絆瘡膏を貼った。
「ありがとうございます。…カップ、割ってしまって…ごめんなさい。」
「いいんですよ、気にしないで。」
英里は、彼の顔をまともに直視できなかった。
さっきの出来事の後では、平静を保つことが出来なかった。
彼は、英里の隣に座り、静かに言った。
「僕は、今、あなたが欲しいと思ってます。
でも……あなたが迷っているのなら、
無理強いはしません。少しでも嫌だと思うのなら…そう、言って下さい。」
”嫌だなんて…思うはずがない…。”英里は、首を横に振った。
「…嫌だって思っていたら、さっきの時点で、そう言ってます。」
英里は小さな声で、でもはっきりと、そう言った。
彼は、英里をもう一度抱きしめ、キスをすると、
彼女のスーツのボタンをひとつづつ外していった…。
ライトグリーンのスーツと、ブラウスを脱がされ、
ストッキングも脱がされ、下着姿にされて、英里の肌にひんやりとした空気が触れる。
秋の雨降り、感覚的には肌寒いと感じるくらいの気温だったが、
不思議と、寒いとは思わなかった。
彼が、シャツを脱ぎ捨てるのを、英里はぼんやりと見つめていた。
彼の手が背中に回され、胸元が、ふっと楽になる感じがした。
「……!」ブラのホックが外されて、肩紐を腕から抜かれていた。
そうと理解するまでに、数秒の間があった。
露わにされた胸に、彼の手が触れる。
温かい手が、ゆっくりと、英里の胸の輪郭を確かめるみたいになぞる。
また、さっきのように、疼くような感覚が、英里の体を走る。
彼の手が、指が微妙に動くたびに、英里の体はそれに反応し、震える。
”どうしちゃったんだろう…いままで、こんな風になったこと、なかったのに…。”
裕也に触れられた時でさえ、こんなになったことはなかった。
「…んっ…!」不意に、唇を奪われた。そのまま、ソファーの上に横たえられる。
彼の唇は、英里の唇から首筋、鎖骨のあたりへと、ゆっくりと滑るように移動する。
そして、胸元へと降りていく。
「…あ…っ!」
胸の突起に彼の唇が触れた瞬間、英里は思わず声をあげた。
それまでとは比べようがないほど、全身に震えが走った。
もう片方の胸を彼の手が包むように覆い、ゆっくりと、優しく触られた。
「あ…っ…!…あ…」抑えようとしても、抑えきれずに声が漏れる。
それが恥ずかしくて、英里は唇に指を当てた。声が漏れないように。
そんな英里の様子に気がついた彼は、英里の指を退けて、キスをした。
「無理に、抑えなくてもいいですよ…。」
彼の右手が、下へ降りて行き…下着の中に忍び込む。
「…あ…ぁっ!」
一番敏感な部分に触れられ、英里の体が、弓なりにしなった。
見なくても、英里は自分のそこが、濡れているのが分かった。
彼の指が動くたびに淫らな音がする。
「あっ…んっ!!」英里は彼にしがみつく。
そんな英里に、彼は優しくキスをして、下着を脱がせ、脚を開かせると…。
彼女の中に、ゆっくりと入った。
その瞬間、かすかに残っていた英里の理性が飛んだ。
彼が動くたびに、英里の体を快感の波が走る。
それまでに感じたことのない快感に英里は翻弄され、
本能のままに、抑えきれない声が漏れる。
体の奥深くからこみ上げてくるような感覚が弾け、英里は絶頂を迎えた。
遠くなる意識の最後に、彼の優しい眼差しを見たような気が、した…。