宮城と長谷は溜まり場の旧体育倉庫に運び入れた桜を、古いマットの上に寝かせた。
「おい、マジでやるのかよ?」
長谷が宮城に恐る恐る聞いた。
「ここまで来てびびったのかよ?
いいから何か縛るもの探せよ。暴れられたら面倒だからな。」
「あ、ああ。」
二人が室内をごそごそ物色している時に、桜が意識を取り戻した。
”…頭痛い…誰かに後ろから…殴られた…?”
辺りを見回し、宮城と長谷の二人を見て、桜は事情を理解した。
この間の仕返しのつもりだろう。
そして、これから彼らが自分に何をしようとしているのかも、察した。
”冗談じゃないわよ。さっさとここから逃げ出さないと!”
桜はふらつく体を無理矢理起こした。

「…おい!」長谷が気付いた。
「なんだ、もう気がついたのかよ。もうちょっと時間稼げるかと思ったのによ。」
「あんた達…こんな事してただで済むと思ってるの?」
桜の言葉に宮城が笑った。
「自分の今の立場分かってんのかよ?
今日は頼みの江川は来ないんだろ?愛想尽かされたんだからなぁ?」
さっきの一件の事を言っているのだろう。
桜は二人を睨み付けた。
”…こんな卑怯な奴らになんか屈しない、絶対に!”
桜は近くに何か武器になりそうな物が無いか視線を巡らせた。
”…!あった!”剣道の竹刀が、少し離れた所に転がっている。

桜は近くにあったテニスボールの入ったカゴを二人目掛けて投げ付けた。
転がるボールに気を取られ、二人に隙が出来た。
桜は素早く竹刀を取り、近い位置にいた長谷のみぞおちを突いた。
「…ぐっ!」
長谷は不意をつかれ、もろにダメージを受けた。
”あとは…!”
宮城の姿が見当たらない。
”どこ!?さっきまでそこに…!”
「…あっ!?」
不意に後ろから髪を掴まれ引きずり倒された。
長谷に気を取られていた間に桜の背後に回り込んでいたのだ。
「…ふざけた真似しやがって!」
宮城が桜に馬乗りになって、力一杯頬を殴りつける。
手加減なしに何度も殴られ、桜は抵抗する力を削がれた。
口の中に鉄臭い味が広がる。…唇の端が切れたらしい。
そうしておいてから宮城は桜の腕を縄で縛り上げた。
ブレザーの前を開かれ、ブラウスが引き裂かれた。
ボタンがパラパラと床に散らばった。
スカートを捲り上げられ、下着が脱がされた。
桜はこれからされるだろう行為に、目の前の男に心底嫌悪感を覚えた。
だが、今の桜には、もう抵抗する力は残っていない…。
「や…めてよ…!」
ぼろぼろの体で、それでも桜は抵抗しようとした。
「うるせーんだよ、黙ってろ!」 また顔を殴られる。桜が低く呻き声を上げた。
…足を開かされた。
”先輩…!”
桜はぎゅっと目を閉じた。
”もう暴れないから…迷惑かけないから…先輩…助けて!!”
来ないと…来てくれるはずないと分かり切っていても、
桜は淳の助けを求めた。
「…いやぁぁ!先輩!!先輩助けて…っ!!」
桜の悲痛な叫び声が室内に響いた…。



「…いや…!放して!やめて…よ…!」
「…ちっ!どこまでもうるせえ女だな!
…おい、長谷!おまえもこっち来てこいつ押さえろよ!」
宮城は暴れる桜を押さえつけ、頬を数発張った。
桜は、痛みのために意識を失うことも出来ず、
宮城の残酷な行為に成す術もなく、その瞬間を迎えようとしていた。
”いやだ…!こんなやつらにされるなんて…!”
触られるだけで、おぞましくて、ぞっとする。
胃の奥から、吐き気がこみ上げてくる。
…桜は女として一番屈辱的な行為をされようとしていた…。
”もう…だめ…!…先輩…っ!”
桜が朦朧とした意識の中で、もう絶対絶命だと諦めかけたその時…。

体育倉庫のドアがけたたましい音を立てて開いた。
「…桜!!」
”…先輩…?”
桜はぼんやりした意識の中で淳の声を聞いた。
視線を、声のした方に向けた。
…淳が、立っていた。
一瞬、痛みが見せた幻覚だと桜は思った。
「…せ…んぱ…い?」
「…桜…!」
”…来てくれた…の?”
淳は、桜の姿を見て、彼女が何をされようとしていたか瞬時に悟った。
「…え、江川!!」
宮城と長谷の顔が青ざめる。まさかここに淳が来るとは思わなかった。
「…何でここが分かったんだよ!?」



話は少し前に遡る。
あの騒ぎの直後、長谷と宮城が一人になった桜を殴って気絶させ、
連れ去るのを見ていた生徒がいた。
…そして、淳に知らせてくれたのだ。
「…桜先輩が…あの二人に連れ去られて…!」
興奮し、焦って、要領を得ない後輩から根気強く話を聞き出し、
淳は宮城と長谷が溜まり場にしているこの体育倉庫の事をすぐに思い出した。
そして駆けつけたのだった。



着衣が乱れて、頬を腫らし、唇から血を流している桜の痛々しい姿に
淳は一瞬言葉を失った。
だがすぐに怒りの感情に変わった。
「…お前ら…よくも桜を…っ!!」
淳はキレて、近くにいた長谷に蹴りを入れ、宮城に掴みかかる。
顔面を数発殴り、みぞおちに膝蹴りを喰らわせると、
淳は宮城をもう一度立たせて殴りかかろうとした。
長谷や宮城は勿論、桜も、こんな淳を見るのは初めてだった。
…怖いと思った。
自分の為に怒りを覚えての行動とは言え、こんな怖い淳を、
桜はこれ以上見ていられなかった。
「…先、輩!もう…いいから…やめて!…やめて…」
桜の声で、淳は我に返った。
床に、二人がうめきながら転がっている。
宮城の髪を掴んで体を起こさせ、淳は低い声で言った。
「…今度、桜に近づいてみろ…!その時はこんなもんじゃ済まないからな…!」
「…ひっ…!」
二人は痛む体を起こし、体を引きずるようにして、逃げて行った。
無我夢中で、手加減なしで彼らを殴りつけた拳が今ごろになって痛みだした。
だが、こんなのは痛みのうちには入らない。
…桜があのふたりにされたことを思えば…。

「…桜。」淳は桜の腕を縛るロープを解いた。
「もう大丈夫だからな。」
桜は何か言いかけたが、言葉が出なかった。
「…っ…!」桜は、震える手で、淳のブレザーの袖を掴んだ。
「桜…。」
淳は、桜の着衣の乱れを、可能な限り直してやる。
ハンカチで、唇の端から流れる血を、そっと拭った。
目が虚ろで、焦点が合っていない。
…無理もない。あんな目に遭ったのだ。
ショックで、茫然自失になるのも、無理はない…。
「…桜、わかるか…?もう、大丈夫だからな。」
桜はようやく淳を見て、少し、ほっとした表情を見せて…
恐怖と緊張が一気に解けたのか、そのまま淳の腕の中に倒れこんだ。
「…桜!!」
淳は、桜に自分の着ていたブレザーを着せ掛け、抱き上げて旧体育倉庫を出た。
幸い、授業中だったため、誰にも見られずに済んだのがせめてもの幸いだった。
…こんな無残な桜の姿を、他人に見られたくはなかったから…。



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