I wish…
〜Kazuya & Mayu〜
「和くん…」
「ん?どうした?真由」
「あの…ね、クリスマスなんだけど…」
妙に歯切れの悪い真由に、和也がちょっと不思議そうな顔をした。
「クリスマス?」
クリスマスイブまで、もう、1週間を切っていた。
「ここに、来てもいい…?」
「なんだ、あらたまって言うから何かと思ったら…いいに決まってるだろ?」
当然、そのつもりだった。もう少ししたら、真由を誘う予定だったのだ。
真由と再会してから、初めてのクリスマスだ。
真由には内緒だが、もう、プレゼントも用意してあった。
親のお金で買うのは、プレゼントの意味がないから、3ヶ月前から学校帰りにバイトをして
その給料で、真由への初めてのプレゼントを買った…。
「…泊まって行っても…いい?」
「…真由?」
今まで、真由はどんなに遅くなってもここに泊まって行く事はなかった。
泊まって行けば?とすすめた事もあるが、それでもきちんと家に帰るから、
和也は真由の家族…親が厳しいのだろうと思って、
それ以上無理を言うことはしなかったのだが…。
「俺は嬉しいけど…その、家の人は…親は、大丈夫なのか?」
真由が帰ってしまう時間を気にせず、一晩ずっと一緒にいられたら…。
それは和也にとっては嬉しいことだけど、そのために真由に無理をさせて、
親に怒られるようなことにでもなったら可哀想だからと、思っていた。
だけど、真由から泊まっていいかと言い出すなんて、思ってもいなかった…。
「…うん、大丈夫」
「じゃあ、一緒にいような?」
「…うん、嬉しい」
真由は和也にもたれかかるようにして、甘えるように体をくっつけてきた。
そのまま、腕に頬をすり寄せる
”…か、かわいいかも…。”
「…真由?」
「…誰かの家に泊まるなんて…初めて」
「友達の家とかは…泊まったことないのか?」
「…うん。」
”大丈夫なのかな…?”
「真由…もし、泊まるのが駄目そうなら、無理しなくてもいいんだぞ?」
「和くん…」
「真由が親に怒られたりとかしたら…悪いから」
「大丈夫。」
「そうか…?」
「うん…私だって、クリスマスの夜くらいは…和くんと一緒にいたいもの…。」
真っ赤になりながら小さな声で言う真由が、和也は本当に可愛いと思った。
今まで、計算され尽くした女の媚を散々見てきた和也には、真由の打算のなさがよく分かる。
真由には、変わらないでそのままでいて欲しいと、和也は思った…。
その日も、真由はいつもと同じように夕食を作って和也と一緒に食べ、後片付けをして帰ろうとした。
「じゃあ、私そろそろ帰るね?」
エプロンを外してたたみ、バッグに入れてコートを着ようとした真由を、和也が後ろから抱きしめた。
「和くん…?」
「…まだ、7時過ぎだぞ?もう少し、いてくれないか…?」
「……」
「それとも、この後何か用事あるのか?」
「ない、けど…」
「じゃあ、もう少しだけ一緒にいようか?」
耳元で囁くと、腕の中の真由の体が、びくびく、と震えた。
真由の手から、着ようとしていたコートがすべり落ちた。
「真由?」
わざと耳のそばで、息がかかるくらいの距離で名前を呼ぶ。
「…もう、和くんずるすぎ…!そうやって言われたら、私がいやって言えないのわかってるくせに」
「…いやなの?」
「………」
真由は首を横に振った。
和也は笑いながら真由を抱き上げて、そのままベッドのある部屋に連れて行った…。
「…ん…」
真由はつかの間の眠りから目を覚ました。
何も身に付けていないのに、不思議と寒いとは思わなかった。
このマンションは空調が自動で管理されているので、暖房を入れる必要はない、と
前に和也が言っていたことを思い出す。
服を着て、乱れた髪を梳いて編みなおしていると、和也が目を覚ました。
「ん…真由?」
「…ごめん、起こしちゃった?」
「…いや…帰るのか?」
「うん」
「じゃあ、送ってくよ」
「大丈夫だよ、まだ時間も早いし…」
「だめ。時間が早いって言ったって、夜なんだから。何かあってからじゃ遅いから」
和也はそう言って、起き上がると、真由の返事を待たずに着替え始めた。
「…ありがとう、もう、ここで大丈夫。」
真由は家の近くの公園の前で、和也に告げた。
「…そうか?」
「送ってくれてありがとう、和くん」
「真由、明日はうちに来れる?」
「ごめん、明日と明後日は、ちょっと用事があって…その次の日なら大丈夫」
「その日は俺がバイト入ってるな…じゃあ、その次の日…はクリスマスイブだな」
「…じゃあ、次に会えるのはイブの日ね。…一度うちに帰ってから和くんの所に行くね」
「ああ、待ってる」
「じゃあ…おやすみなさい」
「…あ、真由」
「…え?」
振り向いた真由に、和也は少し身をかがめて、キスをした。
「…おやすみ」
「お、おやすみなさい…」
和也は真由の姿が見えなくなるまで見届けて、もと来た道を引き返した。
そして、クリスマスイブ…。
真由は買い物をしてから和也の家に向かった。
”…う…重い…ちょっと買い過ぎたかな…?”
元からある荷物に加えて、買い物した荷物が意外に嵩張って、歩きづらかった。
腕時計に目をやると、約束した時間を少し過ぎてしまっていた。
その時、携帯の着メロが鳴った。
”あ、和くんだ…”
和也からの電話は、着信音ですぐわかるように設定してあるからすぐ分かる。
真由は荷物をいったん置いて、コートのポケットから携帯を取り出した。
「和くん?」
『…真由?どうした?』
「ごめんね、遅くなって。…もう少しで着くよ。買い物してきたからちょっと遅くなっちゃった」
『…荷物重くて大変だったりとか?』
”う…どうして分かるんだろう…?”
『迎えに行くよ、今どこ?』
「え?だいじょうぶ、もうあと10分もかからないから」
『いいから、今いる場所教えて?』
再度聞かれて、真由は今いる場所を伝えた。
『OK、すぐ行くから待ってて』
「うん」
電話を切ってから、ものの5分とかからない内に、和也が走ってくるのが見えた。
”…うわ、早い…。”
「お待たせ」
「ごめんね、和くん、わざわざ来させちゃって…」
「いいよ、そんなの。…それにしても、ずいぶんたくさん買い込んだなぁ…貸して、持つよ」
和也は真由の手から買い物してきた物の入っている袋を引き受けた。
買い物してきたものの他にも、真由は大きなバッグと紙袋を持っていた。
「そっちも重そうだな…持とうか?」
「ううん、これは…大丈夫!見た目ほど重くないし…」
「…お泊まりセット?」
「あ…う、ん…」
「…女の子は大変だなー…」
”それもあるけど…それだけじゃないんだけど、な…。”
バッグの中には、和也へのプレゼントが包装されて入っているのだが…。
和也にあげる前にそれをばらしてしまえずに、真由は曖昧に笑ってごまかした…。
和也の家に着いてすぐ、真由は準備に取りかかろうとした。
紙袋の中から、紙でできた箱を取り出す。
「何、それ?」
「あ…ケーキなの。家でデコレーションしようと思ったんだけど、崩れちゃったら困るから、
ここで仕上げようと思って」
箱を開けると、小さなホールサイズのスポンジ生地と、デコレーション用の苺などが入っていた。
甘いものはそれほど好物ではない和也とふたりでも一度で食べきれるようにと、
小さなサイズに焼き上げたケーキだった。
「そうか、何か手伝う事、あるか?」
「え?ううん、ひとりで大丈夫よ」
「そうか?何かあったらいつでも言えよ?」
「ありがとう、準備できたら呼ぶね」
「ああ」
和也はリビングで真由の淹れてくれたコーヒーを飲みながら、
キッチンスペースで動き回る真由を微笑ましく見ていた。
”こういうのも、いいな…。”と、思いながら。
真由に再会するまで、ここに入ったことがあるのは、父親とハウスキーパーだけだった。
以前は殺風景にしか感じられなかったこの部屋が、今は真由がいるだけで全く違う雰囲気に変わる。
”このまま、ずっと真由がここにいてくれたら…。”
そう思うのだが、それはもう少し先にならないと無理だろう…。
「和くん、お待たせ」
真由の声に、和也は考え事にふけるのをやめ、ダイニングテーブルの所へ向かった。
「うわ…すごいな」
テーブルの上には、ケーキを始め、真由の手料理がずらりと並んでいる。
「美味しそうだな…ひとりでこれだけ準備するの、大変だったんじゃないのか…?」
「ううん、そうでもないよ?昨日の内に、下準備できるものは準備して持ってきてたし。
…冷めないうちに食べよう?」
「そうだな…あ、そうだ」
和也は冷蔵庫から赤と緑のリボンの掛かった綺麗なロゼカラーのボトルを取り出した。
「クリスマスだし、特別って事で」
「…お酒…?」
「そう、シャンパン。…親父の所に届いてた歳暮の中から1本失敬して来た」
「和くん…」
ちょっと咎めるような表情をしながらも、その綺麗なロゼカラーに、真由はつい見とれていた。
ボトルが透明なので、中のシャンパンのカラーが綺麗に映えている。
和也は食器棚からシャンパン用のフルートグラスを2脚取り出し、器用に封を切り、栓を抜いて注いだ。
そして、片方を真由の前に静かに置いた。
「あ、ありがとう」
「アルコール、きつかったら無理しなくていいからな」
「…うん」
「乾杯」
2つのグラスが触れ合い、カチン、と小さな音が鳴った…。
ふたりで色々喋りながら料理を食べ、ケーキを食べ終わる頃には、シャンパンもあらかたなくなっていた。
…と言っても、アルコールを飲みなれていない真由は1杯だけで早々にギブアップしてしまい
残りはほとんど和也が飲んだのだが。
口当たりはとてもよかったが、後からじわじわと効いてきたらしい。
飲み慣れない(と、言うか飲んだことがない、と言うのが正しい)アルコールが
真由の頬や目元のあたりをほんのり赤く染めている。
色白な真由だから、そんな変化もすぐに顔に出てしまう。
立ち上がって、テーブルの上の物を片付けはじめようとした真由に、和也が言った。
「いいよ、今すぐやらなくても」
「…でも、なんだかそのままにしておくの、気になるし…」
「あとで俺も手伝うから、今はいいよ」
和也は真由の手から空の食器を取りテーブルに置くと、ひょいと真由を抱き上げた。
「か、和くん…?」
いきなり抱き上げられて、真由はちょっと慌てた。
和也が真由をこうして抱き上げる時は…その後は…。
真由の体に力が入ったのに気が付いた和也は、真由が何を想像したのかすぐに悟った。
「真由?ひょっとして…この後のこと、何か想像、した?」
「…!?なっ、何も…してないよ!」
声が上ずってどもってるのに、気丈と言うか、強情にも真由は言い返す。
腕の中から、赤い顔で上目遣いで見上げられながら否定の言葉を聞いても説得力まったくゼロなのだが。
真由のそんな表情が、逆に和也を煽ると言うことに真由本人はまったく気が付いていない。
「…ふーん?」
和也はちょっといたずらっぽく笑って、真由を抱き上げたまま寝室の方へ歩き出した。
「かっ…か、和くん…!?」
あたふたと動揺しまくりの真由を抱いて、寝室のドアの前まで歩いて行く。
真由はぎゅっと目を閉じて、抱き上げられた和也の腕の中で小さくなっている。
和也は方向転換して、真由をリビングのソファの上に静かにおろした。
そして、その隣に座った和也は状況がつかめず、あっけに取られている真由を見て
堪えきれなくなって笑い出した。
「……和くん!」
からかわれたと気が付いた真由が、笑い出した和也に抗議の声を上げる。
「ご、ごめん…」
すぐに謝ってはみたものの、笑いはすぐには止まらない。
「…もう!」
これ以上笑い続けていると、本格的に真由がいじけそうだなと思った和也は
まだ込み上げる笑いを無理やりおさめる。
むーっと頬を膨らませる真由の唇に、和也はなだめるようにキスを一つ落とす。
不意打ちのキスに吃驚している真由の手を取り、和也はソファのクッションの陰に隠しておいた
綺麗にラッピングされた小さな箱を掌の上にのせた。
「…和くん…?」
「メリークリスマス、真由」
「…ありがとう…開けてみてもいい?」
「いいよ」
真由は包装紙を破かないようにゆっくりと時間をかけて包みを開いていった。
箱の中に入っていたのは…三日月を象った繊細なデザインの硝子のリングスタンドだった。
そして、その三日月にかかっていたのは…。
真由の誕生石のアクアマリンのハートが嵌め込まれたシルバーのリングだった。
「…和くん…これ…」
「安物で悪いけど…」
真由はふるふると首を横に振った。
「…ありがとう…大切にするね」
和也を見上げて、本当に嬉しそうに微笑む真由を見ていると、和也まで嬉しくなる。
「それと…もうひとつ」
「…?」
首を傾げている真由の右手を取って、その薬指にそっと指輪をはめた後で
その手をひっくり返して、掌の上に小さな鍵を置いた。
「…和くん…これ」
「いつでも、ここに来ていいから」
この部屋の合鍵だった。
ずっと渡そうと思いながら何となく渡しそびれていたのをこの機会に乗じて真由に渡した。
「私が持っててもいいの…?」
「ダメだったら最初から渡さないよ」
「ありがとう、なくさないように気をつけるから」
真由は掌の上の鍵を大事そうに包んだ。
嬉しさに真由の表情が緩む。
「……あ!」
「?」
真由はぽん!と手をたたいて立ち上がると、リビングに置いてあったカバンのファスナーを開けて
中から赤と緑色のリボンのかかったちょっと大きな包みを取り出した。
「これ、私からのプレゼント。…メリークリスマス」
「開けてみていいか?」
「うん」
リボンをほどいて包みを開けると、中から出てきたのは着心地のよさそうなグレーのカシミヤ糸で編まれたセーターだった。
ふわふわのやわらかい上質な手触りの、シンプルなセーターだった。
「これ…真由が編んだのか?」
「うん。…この間まで学校の授業で編み物やってたんだけど、それに使う毛糸買いに行った時にね
この毛糸見つけて…和くんに似合いそうな色だなぁ…って思ったの。
それで…気が付いたらつい買い込んじゃって…」
話しながら、真由は何故かだんだん俯き加減になる。
「…真由?」
「手編みとか手作りのものって、男の人は敬遠しがちだって、毛糸買った後で気が付いたんだけど…
でも…」
最後の方は小さな声で聞き取りにくくなったけど、真由の言いたいことは伝わった。
確かに以前の自分だったら、手作りのプレゼントなど受け取る気にもなれなかっただろう。
それに込められた想いの重さを、きっと持て余していただろうから。
だけど、今は…今ならそうは思わない。
「真由、これ完成させるまでに、どのくらいかかった?」
「…え…?あ、ひと月ちょっと…かな?」
「編んでる間、どんなこと考えてた?」
「…え…あの…その…」
「真由?」
俯いて視線をそらす真由の顔を和也が下から覗き込んだ。
両頬を和也の手で押さえられて、正面から見つめられる。
”うわぁ……!”
まっすぐ見つめられて、真由は観念して白状した。
「…和くんのこと…考えてた。着てくれるといいなぁ…とか、似合うといいなぁ…とか」
和也は真由の顔から手を離し、おもむろに着ていたシャツのボタンに指をかけた。
「…か、和くん…!?」
真由はいきなりの和也の行動に目をみはった。
和也はそのままシャツを脱いで、セーターを手に取って、着替えた。
「…感想は?」
「……う…」
「う?」
「嬉しすぎて…困る…かも」
このままにしておいたらどこまで赤くなるのだろうか?と思わず考えるほど顔を赤くした真由を見て
和也のまなざしが優しく和む。
真由がさっき言った事…手作りのものを敬遠する男の話…も、一般論としてはあながち分からない訳ではない。
だけど…それはあくまで一般論であって、自分の今の状況であれば…。
真由がこのセーターを完成させるまでの間、ずっと自分のことを考えていた…と聞かされて
嬉しくないはずがないだろうと和也は思った。
”…嬉しすぎて困るのは、こっちの方だ。”
真由の行動の、言葉のひとつひとつが、今まで、どれほど和也を嬉しく、幸せな気持ちにさせてくれたことか…。
これから先、どこまで自分を深みに溺れさせてくれるつもりなのか…。
それを考えると……少しばかり怖い気もするが。
だけど…こんな風に感じるほど、今が幸せだと思えるのは…。
真由に出会えたおかげだと思う。
あの時、どこかで何かひとつでも間違って、真由に再び会えなかったままだったら…。
こんな風に思えるような日はきっと来なかっただろう…
「…和くん……?」
不意に黙ったまま、何かを考え込んでいるような様子の和也に、真由がおそるおそる声をかけた。
「………っ!」
一瞬、視界が遮られて…一面グレー色に見えた。
少しして、そのグレーが和也が着ている自分の贈ったセーターの色だと言うことに気がついて…。
真由は、和也の腕の中に抱きしめられていた。
少し苦しく感じるほどに強く抱きしめられて、身動きが取れない。
和也の使っているブルガリブループールオムの香りがふわりと香った。
爽やかだけど、どこか暖かみのある感じのする、彼の香り。
「和…ん…っ!」
和也の名前を呼ぼうとした真由の唇は、最後まで言葉を紡げないままに塞がれた。
「……ふ…ぅ…んっ…!」
息苦しさに僅かに開いた真由の唇を割って、和也の舌が入り込んでくる。
真由は無意識の内に縋るものを求めて、和也の背中に腕を回して抱きついた。
それを感じた和也のキスが、より深いものになっていく。
いつも、和也のキスは真由から思考能力と理性をあっという間に奪っていく。
キスを続けながら和也の手が、真由の髪を優しく梳くように触れた。
そして、指先で真由の耳をそっと撫でる。
「…ひゃ…っ…」
真由の体がその指の動きに反応して、びくっと震えた。
和也はそのまま耳から首筋へとゆっくりとなぞるように指を滑らせた。
指の後を辿るように、和也の唇が真由の耳に触れた。
触れた唇と、吐息の熱さに、真由の体がさっきよりも大きく震える。
思わず和也から体を離そうとしたが…でも、それはできなかった。
体が傾ぐような感覚に目をぎゅっと閉じて…その後。
目を開けると、すぐ間近に和也の顔があった。
一瞬、自分がどんな体勢でいるのか分からなかった真由だったが…
背中に当たるクッションの感触と、和也の顔を見上げる形になっていると言う事は…。
真由はようやくソファに横たえられている格好になっている事に気が付いた。
「…え…っん…っ!?」
声を上げかけた唇は再び深いキスで塞がれて。
息が上がりそうなほど何度も唇を重ねた後で…和也の唇が再び真由の耳に触れた。
「…きゃ…っ!」
熱く濡れた感触が耳の中に触れ、それと同時に響いた水音に、真由は思わず小さな悲鳴を上げた。
”なに…?今のは…?”
「…真由」
名前を呼ぶ声と吐息に、真由の背筋にぞくりとした感触が立ち上ってきた。
そして、またさっきのような、熱く濡れた感触が真由の耳に触れてきた。
耳に響く水音に、真由は今度こそはっきり、何をされたのか理解した。
理解した瞬間、かぁっと体が熱くなる。
「…や、和くん…ひゃ…ぁっ!」
今までされた事のないその行為に戸惑った真由が思わず和也の体を押しのけようとするが
真由の力ではそれを出来る筈もなく。
押しのけようとした手を握られ、身動きもできなくされてしまう。
耳元で響く音と、吐息と舌の感触に、真由は翻弄された。
慣れない感触にぎゅっと目を閉じるが、それは却って逆効果だったようで…。
視覚を閉ざした事で聴覚はより一層敏感になったらしく、それまでよりも顕著に真由の体は反応してしまう。
頭の芯から溶けてしまいそうだった。
「…っ…あ、だめ…っ…!…やぁ…っ!」
真由の体がびくん、と震えた。
その感覚は、和也の腕の中で、もう幾度となく感じたものではあるけれど。
”…うそ……。”
真由は信じられない思いで、まだ呼吸も整わないまま、ただ茫然としていた。
耳を舐められた。
…ただそれだけで、自分の体があんな風になってしまうなんて…。
ぼんやりとしていた真由の意識を、ちりっとした首筋への微かな痛みが引き戻した。
「…和くん…」
さっきのことで、あまりの恥ずかしさに和也の顔がまともに見られなかった。
思わず視線を逸らしてしまう。
和也はそんな真由の髪を撫で、頬にキスをした。
その和也の視界に、床に落ちた赤と緑のリボンが入った。
真由からのプレゼントのこのセーターのラッピングに使われていたものだ。
和也はそのリボンを拾いあげ、まだどこかぼんやりしたままの真由の手首に、そのリボンを結んだ
「…?」
「もうひとつ、プレゼントもらおうかな?」
「え?…ええっ…!?」
真由がそのリボンと和也の言葉の意味を理解したときには時すでに遅し。
和也は真由をその腕の中に抱き上げて、寝室に向かっていた…。
ベッドの上におろされて、着ている服を、一枚一枚脱がされていく。
一枚ずつ脱がせるごとに、露わになっていく真由の肌に和也は優しく触れ、キスを落としていく。
下着だけの姿だけにしたところで、和也は一度体を起こし、自分も服を脱いだ。
そして、和也は手首に結んだリボンだけを残して、下着をも取り去った。
「…和くん…これ…」
真由は左の手首に結ばれたままのリボンを和也に見せるが…。
「…ほどくなよ?」
「でも…ひゃ…っ!」
その手をつかまれて、手首に唇が当てられる。
強く吸われて、赤い跡が残る。
そして、その跡をなぞるように、舌を這わされて…その手を和也の肩に置くように導かれる。
もう一方の手も、同じようにされて、自然と和也の首に腕を回すような形になる。
そのままの状態で、額に、頬に、そして唇に、キスをする。
触れるだけのキスから、深いキスに変わるにつれ、和也の首に回された真由の腕に、力が入って…。
二人の体はそのままゆっくりとベッドの上に倒れこんでいった。
何度もキスを交わして、そのまま和也の唇が真由の首筋から、鎖骨のあたりへとゆっくりと移動していく。
時折、ちりっとした痛みがそのあたりに走り、自分では見えないが
きっと、いくつもの赤い跡が残されているのだろう…。
和也の手が、真由の胸の膨らみにそっと触れる。
掌に、かたくなり始めている感触が触れて、和也はそっとそこに唇を近づけた。
「…あ…っ…」
和也の手が、胸からウエストにかけてのラインをゆっくりと撫でるように滑りおりて行き
時々、真由の体がその手の動きに反応して震えるように動く。
真由の体が反応したところを追うように、和也はキスを落としていく。
そして、真由の体の中で、一番敏感な部分に、和也の指先が触れた。
「…っ…!」
そこはもう、それまでの愛撫ですっかり潤っていて、和也の指を濡らした。
ゆっくりと、中に指を入れる。
和也の指が動くたびに、真由のそこは絡みつくように纏わりついてくる。
中を指でゆっくりと探りながら、敏感な蕾に唇をつけ、舌先で触れる。
「…は、ぁ……や…あぁ…っ…!」
真由の声音に、切羽詰った響きが混じり始める。
シーツを掴む真由の指先が、白く色が変わるほどに力が入っている。
和也は、そこでいったん、愛撫をやめた。
「…和くん…?」
不意に止められた愛撫に、真由が訝るように和也を見る。
和也は、体を起こし、サイドテーブルの上に置いてあった銀色の小さな包みを開けた。
それが何か気が付いた真由は、和也がそれを自分自身につけている間、目を伏せていた。
和也は避妊具をつけると、真由の体を抱きかかえるようにして、ゆっくりと真由の中に自分自身を挿入れた。
「…ふ…ぁっ…」
中を隙間なく満たすような圧迫感に、真由は息を呑む。
何度となく繰り返したこの行為だが、まだ最初だけはどうしても体が構えてしまう。
和也もそれはわかっているらしく、真由の体の強張りが取れるまで、優しく髪を撫でたりキスをしたりしながら
ゆっくりとした動きで真由の体がほぐれるまで待っていてくれる。
でも、それも長くは続かない。
真由の中の熱さと、狭いくらいのきつさが、和也を否応なしに煽るから。
「…ひゃ…ぁん…っ!」
徐々に激しくなる和也の動きに、真由は和也にしがみついて声を上げる。
「…あ、んっ…和くん…和くん…っ!」
その甘い声により一層煽られて、和也の動きが早く、激しくなる。
「や…和くん、わたし…っ…もぅ…」
真由の言葉と、繋がっている部分の状態が、真由に限界が近い事を和也に伝える。
「…いいよ、イッて…」
「和く…ん!…あ…っ…ああ…っ…!」
「…真由……っ!」
二人は、同時に昇り詰めた…。
和也は、昇り詰めた後、半ば気を失うように意識を飛ばした真由を
腕の中に抱きかかえるようにしながら、乱れた髪をそっと梳くように整えた。
そのくせのないまっすぐな髪は和也の掬い上げた指の隙間からさらさらと流れるように落ちる。
「…ん…和くん…?」
髪を弄られる感触がくすぐったかったのか、真由がうっすらと目を開けた。
「あ、悪い、起こしちゃったか?」
「んー…」
まだはっきりと意識がこちら側に戻ってきていないらしい。
とろんとした目で、和也を見ている。
焦点の定まらない瞳で、和也を見て、真由が微笑んだ。
その微笑みは、おさまったばかりの和也の欲を、再び煽りそうなほど綺麗で。
色々な意味で…ヤバイ気がする。
このままもう一度抱きたくなってしまう。
「和くん…」
そんな和也に、真由が呼びかけた。
わき上がりかけた衝動を抑えながら、和也は真由を見た。
「ん?」
「来年も、再来年もずっと、こうして一緒にいられたら…いいね…」
そう言うと、真由はそっとその瞳を閉じた。
ほどなくして、真由の唇から、気持ちよさそうな呼吸が聞こえてきた。
「………そう、だな…」
和也のまなざしが、優しいものになる。
”…来年も、再来年も、その先もずっと、こうして一緒にいられたらいい。”
それは、真由だけでなく、和也の願いでもあった。
どうしようもなかった自分を変えてくれた真由とともに、この先もずっと一緒にいたい。
その真由が、自分と同じ願いを持っていてくれている。
そのことが、どうしようもなく嬉しかった。
一緒にいよう。
遥か先の未来なんて、まだわからないぼくらだけど。
永遠という言葉の本当の意味なんて、まだ知らない二人だけど。
それでも一緒にいれば……。
いつかはその意味がわかる時が来るかも知れないから。