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彼女を部屋に連れて行くと、いつものように猫が待っていた。
知らない人間を連れて来たから警戒するかと思ったが…。
「…あ、猫だ。」
彼女は猫の頭を撫でようと、膝をついて手を伸ばした。
「…おい…。」引っかかれるぞ、と言おうとした俺は
彼女に体をすり寄せ、何の警戒もなく撫でさせ、懐く猫を見て唖然とした。
たまにここに来る親父にだってけして懐かないのに…。
懐かないどころか、警戒して威嚇するのに…。
…まぁ親父は嫌いだからこいつが懐かなくても何の問題もないが。
…それにしてもこの少女は…?
「…何か飲むか?…って言ってもコーヒーか酒しかないけど。…あ、中学生に酒はマズイな。」
「あの…私、高校生なんですけど…。」
「…え!?」
「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか…。」どうやら気にしている事らしい。
「…あ、ああ、ごめん。」
”しかし、この顔で高校生とはね…。どう見たって中学生にしか…。”
150センチそこそこ位の身長に、この童顔。それに、体だって…。
あ、いや…。いつも相手にしている女達とつい比べてしまった。
「今いくつ?」
「十六です。」
「俺の一つ下か…。」
「…えっ!?もっと年上かと…あっ、ごめんなさい…!」
あたふたと謝る彼女に、俺はつい笑ってしまった。
「いいよ別に。コーヒーでいいか?」
「はい。」
コーヒーを飲みながら俺は彼女と色々話をした。
俺にしては珍しく良く喋ったと思う。
彼女は聞き上手で、他愛ない話でも、時々相槌を入れながら
ちゃんと聞いてくれるから、つい饒舌になってしまうらしかった…。
そして子供の頃の話になった時、彼女の話に俺は愕然とした。
「昔、近所に好きだった男の子がいて…。
私、よくその子のあとをくっついて歩いていたんですよ。
置いて行かれたりすると、もう、半分泣きべそかきながら追いかけて行って。」
「…うん?」
”…あれ…?”
「でも、その子は迷惑だったみたいで、他の男の子にからかわれた時、
私みたいな泣き虫のブスは嫌いだって言われちゃったんですよね。」
”…ちょっと待てよ、おい…!” 俺は動揺を隠して聞いた。
「…で、その男の子は?今どうしてるの?」
「さぁ…私その後直ぐに親の仕事の都合で引っ越したから…。」
そこで俺は確信した。
”…間違いない。『咲坂真由』だ…!”
今目の前にいるのは、ガキの頃、俺が酷い言葉で傷つけたまま別れた、あの少女だ。
「…その子の事、まだ怒ってるの?」
彼女…真由は、笑って首を横に振った。
「まさか!…もう、昔の、小さな子供の時の話ですよ?」
「今もしも、そいつが目の前に現れたらどうする…?許せない?怒るか?」
「…え?」
真由は不思議そうに俺を見た。そして、もう一度首を横に振った。
「もし、もう一度逢えたら、今度はキライだなんて言わせない。
好きだって言わせてみたいかな…なんて、無理な話なのに…ね。」
そう言って真由はちょっと寂しそうに笑い、時計を見た。
「…やだ!もうこんな時間!あの、私帰らなきゃ…。
ごめんなさい、こんな遅くまでお邪魔して。」玄関に向かいかけた真由の腕を…。
俺は掴んで、引きよせて、腕の中に抱きしめた。
「…あっ…ああ、あのっ…!?」
腕の中で、真由があたふたと焦っているのが、手に取るように分かる。
俺は、真由の体を強く抱きしめた。
「まさかって思った。…名前が同じだけの別人だって思った。
…でも間違いない、咲坂真由、だろ?」
「!…どうして?私の名前…まさか…。」
「俺の名前は水島和也…覚えてるか?」
真由はびっくりして何も言えなかった。
十年経って、まさか思い出話をした相手が…当の本人だったなんて。
「和…くん?」自然と昔の呼び名が出て来る。
「ずっと…謝りたかった。…キライだなんて嘘だった。
…あの時、からかわれて恥ずかしかっただけなんだ。」
十年間、ずっと言えずに、心の奥にいつも引っ掛かっていた事を、
…俺はやっと謝った。
「真由、ごめん。」
「…覚えていてくれたなんて、思わなかった。…もう、怒ってなんかいないよ。
ありがとう、覚えていてくれて。…私のこと…忘れないでいてくれて。」
真由は、俺を見上げて、優しく微笑んだ。
…10年前の、あの笑顔の面影が、残っていた…。
その笑顔に、俺は懐かしさと…愛しさを感じた。
俺は、真由の頬に手を当てて上向かせ、キスをした。
「…んんっ!」
真由は突然のキスに驚いて逃れようとしたが、俺は彼女を離さなかった。
「…か、和くん…。ん…っ!」
せわしなく繰り返すキスの合い間に、俺の名前を呼ぶ真由の声が、
俺の気持ちをさらに高める。
酸素を求めて喘ぐ真由の唇を、俺はもう一度自分の唇で塞いだ。
「んん…っ!…ふ…ぅっ…!」
やがて真由の体から力が抜けて行った。
抱きしめる腕を少し緩めると、とたんにその場に崩れ落ちそうになるほど、
体に力が入らないようだった。
ふらふらっと、よろけそうになった真由の体を支える。
まるで言うことをきかない自分の体に、
真由は戸惑い、驚いているようだった。
俺は真由を抱き上げて、隣のベッドのある部屋に連れていった…。