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ガキの頃から、親父の愛人だった母親とその子供の俺に対する
周囲の目は冷たく、そして厳しかった。
親は子供にも言い聞かせていたのだろう。
『あの子と遊んじゃ駄目よ。』とでも。
片親の…父親のいない訳ありのガキと、
自分の子供を関わりあわせたいと言う親は
まずいないだろう。…当然のことだ。
俺と遊ぶ子供は一人減り、二人減り…そして、俺は孤立した。
だけど、その子だけは、何の屈託もなく俺に話しかけてきた。
『遊ぼう?』と。
一人ぼっちだった俺に、無邪気に笑いかけて来た。
親に俺と遊ぶなと言われてないのかと聞くと、首を横に振った。
『ううん、ママそんなこと言わなかったよ。』と、言った。
その日から、少女は俺の後をついて来るようになった…。
そんな、多分俺にとって最初で最後だろう理解者を
ガキだった俺は自分で傷つけて突き放してしまった。
近所の悪ガキにからかわれたからと言う、ちっぽけな理由で。
何も分からないガキだったとは言え、馬鹿な奴だよな…。
考え事をしていた俺の足元に、猫が体をすり寄せて来た。
…そろそろメシの時間だ。
俺はキャットフードの缶を開けて、餌皿に出してやった。
猫はおとなしくそれを食べ始めた。飲み水も新しいものに変えてやる。
猫がフードを綺麗に平らげ、水を飲み、満足そうに顔を洗い始めたのを
見届けてから、俺も食事を取る為に外に出た。
…そこで俺はこの辺で犯罪スレスレの事をやって
小金を稼いだりしている連中に絡まれてる女を見つけた。
「やっ…!は、離してください!」
「いいじゃん、ちょっと遊ぶだけだって。そんなに怯えなくても大丈夫だからさぁ。」
…結構この辺りじゃ良くある光景だ。
俺はその横を通り過ぎようとした。
…その時だった。女と目が合った。
”…なんだ、まだガキじゃないか。”怯えた目に涙を溜めていた…。
…中学生だろうか? この辺をうろつくナンパ目当ての軽い女とは明らかに違う。
多分それが連中の興味を引いたんだろう。
”まだガキのくせにこんな所に来るから厄介な事に巻き込まれるんだよ。”
俺だって人の事言えた立場でもないが、関わり合いになる気はなかった。
通り過ぎようとしたのだが…。
…泣きそうな少女の顔が、何故か記憶の中の少女の顔と似て見えて、
俺の口から無意識の内に言葉が出た。
「真由?」…と…。
少女はびっくりした顔で俺を見た。
”…?”俺は彼女がそんなに驚くような理由がわからなかった。
「何だ?」男達が怪訝な顔で俺を見た。
相手は四人…まともに相手をして勝てる人数じゃない…。
と、なると…方法はただ一つだった。
「…走れ!」逃げるが勝ち、だ。
俺は少女の手を掴んで走り出した。
男達は一瞬何が起きたのか分からなかったらしく、反応が遅れた。
何とか撒いて辺りを見ると、マンションの近くまで戻って来ていた。
少女を見ると、うずくまってはぁはぁと荒い呼吸を繰り返していた。
時々咳き込んでいる。
…無理もない。さっきの場所からここまでは結構離れている。
それを全力で走って来たのだ。彼女にとってはちょっと酷だっただろう…。
「大丈夫か?」彼女は頷いた。
「…あの…どうして私の名前、分かったんですか?」彼女は不思議そうに聞いた。
「え?」
「私の名前、真由って言うんです。…私のこと…知ってるんですか?」
「…いや、さっきは適当に言っただけで…あんた…あ、いや君のことは知らないよ。」
彼女が何か言いかけた時…近くで男の声がした。
「…おい、いたか!?」さっきの男達の内の一人の声に似ていた。
”…まだ探してたのか…。”
少女も気付いたらしい。表情がこわばる。
「…すぐ近くに俺の家がある。来るか?」
俺は自分で自分の言葉に驚いた。
面倒な事が何より嫌いな俺が…いかにも訳ありそうな少女を助けたってだけでも
驚きなのに。
何でこんなこと言う気になったのか…自分でも分からなかった。
…『あいつ』と同じ名前のせいだろうか…?…彼女の雰囲気のせいだろうか?
どうも放って置けないと思わせる『何か』が彼女にはあった。
俺は彼女の返事を待たずに手を引っ張って歩き出した。
彼女はびっくりしたようだったが、何も言わずついてきた。
この俺が、女の子の手をひいて歩く光景なんて…。
俺を知ってる奴が見たら目を疑うな…などと思いながら
俺は彼女を自分の部屋に連れて行った。