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和也は、醒めた気持ちで女を抱いていた。
自分の下で、女が、髪を乱し、汗ばんだ顔と体で喘いでいる。
それを見て、さらに気持ちは醒めて行く…。
今体を動かしているのは、惰性のようなものだ。
体の欲望を処理するだけの、気持ちのこもらないセックス。
「あっ、っ!…あぁっ!和也…!いく…いっちゃぅ…っ!!」
和也は昇り詰めてぐったりしている女から体を離した。
制服のポケットを探り、マルボロとライターを取り出し、
火をつけて大きく吸い込んだ。
普段吸わない煙草をセックスの後だけ吸うのは、
香水や化粧品などの女特有の匂いが嫌いだから。
その女の匂いを煙草の匂いで紛らわせるためだ。
和也にとって、女は体の欲望を満たすだけの相手にしか過ぎなかった。
やれればどんな女だって構わない。
それだけしか求めていない相手が、自分の気を引く為に化粧をし、香水をつけ、
綺麗な服で自分を飾りたてていようと、
和也にとってはどうでもいいことであり、逆に欝陶しくさえ感じるのだ。
「ねぇ和也、この後どうするの?どっか行かない?」
シャワーを浴びて出て来た女が、バスローブを羽織りながら、
耳障りなほど甘ったるい声で誘って来る。
和也は女の手を邪険に振りほどき、制服を着始めた。
…女の香水の移り香が鼻につく。
シャワーを浴びたい気もしたが、今は一刻も早くここから去りたかった。
終わった後で、だらだらと長居はしたくなかった。
「帰る。」
「何よ、終わったら急に冷たいのね。」
拗ねた表情と声で女が文句を言う。どの女も決まってそうだ。
「俺の事を知ってて近付いて来たんなら分かってんだろ?
…一度寝ただけで彼女気取りするなよ。」
俺はブレザーを着て部屋を出た。
「…もう!絶対アタシが落としてやろうと思ったのに!」
女はキリ、と爪を噛んだ。和也の出て行ったドアに、枕を投げつけた。
”…バーカ。”ドアの外で和也は女の声を聞いていた。
…いつからかは知らないが、俺に近付いて来る女たちは、
俺を落とすのを賭けの対象にしているらしかった。
何を賭けているのかは知らないが…暇な奴らだ。
まぁ、別にどうでもいいことだけど。

和也は地下鉄と電車を乗り継ぎ、駅から五分程歩いた瀟洒なマンションに着いた。
オートロックを解除してエレベーターで10階まで上がり、
直ぐ目の前が和也の住んでる部屋だ。
和也が中学生になってすぐの頃、母親が病気で死んだ時、
初めて会いに来た父親が、用意したマンションだ。
以来、俺はここで一人で暮らしている。
高校生の一人暮らしには、不相応に広すぎる3LDKのこの部屋で。
週に2度、親父が雇った家政婦が、掃除や洗濯などを俺がいない間に片付けていく。
生活費は親父の秘書が俺名義の銀行口座に振り込んでくる。
親父は気が向いた時だけここに来て、喋りたい事だけ喋って帰る。
俺は、黙って聞き流し、適当に返事をして、親父が帰るのを待つ…。
どうせ俺が何か話したって、親父は聞いちゃいない。
自分に都合のいいことだけしか、理解しないんだ。
そんな生活が、ここ数年続いている…。
ドアを開けると、砂色の縞模様の猫が玄関で前足を揃えて座っていた。
ドアを開けた俺を見て、にゃあ、と鳴く。
いつもこいつは俺が帰るとこうして待っている。
…忠犬ハチ公みたいな奴だ。(猫だけど。)
靴を脱いでリビングに向かう俺の後を、猫が邪魔にならない程度の距離を保って付いて来る。
…こいつは捨て猫だった。一年位前、雨の日に、にゃーにゃー鳴きながら俺の後を付いて来た。
今みたいに近付き過ぎず、でも何の警戒もせずに
当たり前のようにマンションまで来たから、そのまま飼うことにした。
俺の後を付いて来るこいつを見ていて、こいつに似た子がいたことを不意に思い出した。
…すっかり忘れていた、ガキの頃の話だけど。
ガキの頃、俺はその子に酷いことを言った。
そして謝ることさえ出来ないまま、その子はいなくなった。
今どこにいるんだろうか…?
…変な話だけど、最近女と寝ている時、
時々、最後に見たその子の泣き顔が頭に浮かぶことがある。
何故かは分からない。
…そしてその後は決まってやる気が失せる。
”…罪悪感?”
俺には一番縁のない感情だろうな。あったら今こんな生活はしていない。
…学校にはたまにしか行かない。
バイクを乗り回し、言い寄ってくる女を片っ端からヤリ捨て、
付いたあだ名が学園一の鬼畜男。
それでも会社社長の親父のコネと、学園への多額の寄付で、
大学まではどんなに問題を起こそうが無条件で進学できることが決まっている…。
大学受験にあくせくしている奴らが聞いたら多分目を剥いて怒りそうな境遇だよな。
…生活には困らない。
だけど心から楽しいと思えることなんかなかった…。